ヤンデレ研究日誌

腐女子によるヤンデレ研究レポート

雨のように振り続ける孤独 秋霖 門地かおり〜孝助

デジャブ。 (ビーボーイコミックス)

デジャブ。 (ビーボーイコミックス)

現在手に入るのはこちらデジャブ。(短編集の再録版)の方。「秋霖」は一番最後に掲載されている。

告白の言葉のない国 (ビーボーイコミックス)

告白の言葉のない国 (ビーボーイコミックス)

絶版だがこちらのコミックスにも収録されている。



門地かおりさんの描くヤンデレキャラには他の追随を許さない魔力がある。

初見では気付かないさりげない闇、足元から冷たく這い寄ってくるような怖ろしさ、それでいて純粋無垢でただひたすらにまるで赤子のように光に焦がれている…

生徒会長に忠告」シリーズや短編でしばしばそんなキャラクターかすっと現れる。

江戸時代のキリシタン弾圧を題材にした短編「秋霖(しゅうりん)」もその中の一つだ。

幕府によるキリスト教信者の弾圧が行われている江戸時代。
孝助と良市は親方様の命を受けて不穏な芽を摘み取るべく長崎へと出発する。
しかし孝助は隠れキリシタンであり、良市を裏切りその身を拘束してしまう。
そして孝助は幕府の仲間であり良市の恋人・暁に追われる身となるが…



そもそも孝助はなぜキリシタンになったのか。

昔から想いを寄せる良市には暁という恋人がいて、自分が入れる隙などない。自分を大切にはしてくれているが、本当に必要とはしてくれていない。
幕府の命で人を殺め、殺めた人間は誰かに必要とされていたと知り、誰にも必要とされていない自分が人を殺める資格はないと気付く。

ただただ、孤独だけがそこにあったのだ。
秋の涼しさの中振り続ける雨のように。
孝助の心にはいつも雨が降っていたのだろう。

良市や暁が気付かぬうちに雨は振り続け、耐えきれない量になり、やがて孝助は自殺する事を決意してしまったのだった。

キリストの教えを守る為、またささやかな復讐として暁に「わざと殺される」という自殺方法を選んだ孝助。

一度この作品を読み終えた後、二度目に最初から読み、孝助が最初から暁に殺される為に工作をしていた事がわかりゾッとした。

穏やかで心優しく、最期まで激情を表に出さなかった孝助の闇深い内面が怖ろしい。

およそBLのラブのかけらもないような悲しい結末だが、救いのないバッドエンドではないように思う。
孝助はキリスト教に救いを求め、他殺されるという死に方を選択して漸く孤独から解放されたのだ。


静かな狂気、というものにヤンデレの真髄があると考えているので、ぜひヤンデレキャラ好きにはこの「秋霖」を読んでもらいたい。


孝助はヤンデレタイプ別にすると依存型、そしてやや神格化型も兼ねているように思う。

想いと優しさが空回る悲しさ 菜の花の彼〜鷹人

[まとめ買い] 菜の花の彼―ナノカノカレ―(マーガレットコミックスDIGITAL)

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この作品はとりあえず2巻まで読んでほしい。

1巻を読んだ時には良くも悪くも普通の少女漫画、としか思わなかった本作品。
先日2巻まで無料配信されていたのでこの期に…と読んだら驚いた。
いわゆる"当て馬キャラ"の主人公の元彼「鷹人」がとても良いヤンデレだったのだ。


鷹人は主人公菜乃花の中学時代の元彼であり、心にもない事を言ってしまう性格から菜乃花に強いトラウマを植え付けていた。
高校生になってからもトラウマを抱えていた菜乃花は年下の中学生隼太に出会い、その優しさに惹かれていく。
しかし鷹人は未だに菜乃花に強く執着していた。
菜乃花とある日偶然カラオケボックスで再会した時、出会えた事に「運命っぽいと思っただろ」と自分が思ったであろう事を問いかけると、菜乃花は他に好きな人がいるとはっきり拒絶する。
そんな菜乃花に苛立った鷹人は無理矢理キスをしてしまい、さらに菜乃花を傷付けるのだった…。


鷹人は言動が心と裏腹になってしまう不器用な人間なので、いつもボタンを掛け違えるように空回る。
菜乃花の事が心から好きで大切なのに、菜乃花の心には伝わらず、傷跡だけが残るばかり。
そして菜乃花は鷹人の傷跡を踏み台に隼太を愛するようになってしまっていた。

菜乃花と鷹人の内面や空気感がとても似ている事が作中で触れられており、二人のモノローグは度々重なって巧みに表現されている。
鷹人が菜乃花に向ける気持ちと、菜乃花が隼太に向ける気持ちはとても似ているのに、永遠に交わらない。
鷹人はその事実に気付き打ちのめされるが、菜乃花を守りたいが為に自分の気持ちを押し殺すようになっていく。

好きなのに傷付けて、守りたいから自分を押し殺す。
菜乃花にはそんな繊細な内面がまるで伝わっていないあたり、鷹人は当て馬キャラの中でも稀に見る不憫なキャラクターだ。

身勝手に、暴力的に見える菜乃花への執着心も、純粋な好意や思いやりから生まれたものなのに、この先どう捻れ歪んで行ってしまうのか…
絶望的な鷹人の恋の行方、闇しか見えない。

そしてヤンデレキャラはその愛情や依存心が満たせなくなった時、代償行為に走る。
鷹人は押し殺した気持ちをどう爆発させるのか。
更なる病みを大いに期待している。



鷹人はヤンデレタイプとしては依存型。そして失くしたものを取り戻そうとするタイプも併せ持っていると思う。



愛は逃げ足が速いから 縁側のレシピ〜英太郎

縁側のレシピ (花丸コミックス・プレミアム)

縁側のレシピ (花丸コミックス・プレミアム)


藤たまきさんの作品は、柔らかく優しい絵柄と裏腹に時にとてつもなく暗い人間の内面が見え隠れする。

姉を介して知り合った恩(めぐみ)と英太郎。
恩は成り行きで英太郎のダイエットを手伝うことになり…

そして2年のダイエット指導を通して仲良くなる二人だったが、その想いの方向性が実は全く噛み合っていないことに恩は気づかない。

物語の前半は恩視点の為か、ほのぼのとした雰囲気が続くが、
英太郎視点で描かれる後半からじわじわと英太郎の異常さが滲み出てくる。

英太郎は親に愛されず、常に飢餓感に苦しんでいる人間で、それ故に過食に走る傾向があった。

さらに幼い頃ペットの兎を喪ったトラウマがあり、「愛を逃さない為には逃げられないよう閉じ込めるしかない」という強迫観念を抱いている。


"愛は逃げ足が速い  野生の動物のように"

作中で英太郎が独白するこの台詞が印象深い。

物語の終盤、英太郎が強行手段に出た結果、恩は英太郎が「色んなものが足りていない」人間だと気付く。

足りていないもの。
それは居場所や温かさや愛だったり…
人が普通に生きていれば手に入るもの。

恩は英太郎を受け入れ、英太郎に足りていないものを与えると最後には決意する。

ヤンデレキャラが救済される終わり方なので、バッドエンドが苦手な方にもおすすめできる作品だ。



英太郎のヤンデレタイプは独占型と依存型だろう。
そして嫉妬心の代償が好きな人そのものに向くヤンデレの中でも危険な部類に入る。




*余談
ヤンデレとは違うが、藤たまきさんの「フラッグ」も人の闇を描いた作品。


フラッグ 1 新装版 (gateauコミックス)

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フラッグ 2 新装版 (gateauコミックス)

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感情を捨てた子供の獣 gift 上〜白石勁

gift 上  白い獣の、聞こえぬ声の、見えない温度の、 (バーズコミックス ルチルコレクション)

gift 上 白い獣の、聞こえぬ声の、見えない温度の、 (バーズコミックス ルチルコレクション)


ボクシングジムトレーナーの御子柴宥は、父親のようなボクサーになれずしかもゲイである自分に罪悪感を感じていた。

そんなある日、路地裏で喧嘩に巻き込まれそこで類い稀なるボクシングのセンスを持つ銀髪の男、白石勁と出会う。

クオーターで外国人のような外見をしている勁は、痛みや感情を知らないかのようなおよそ熱を持たない人間に宥には見えた。
宥がゲイであると知っていた勁は、ボクサーを目指すふりをすることを黙らせる脅しと称して宥に肉体関係を強要するのだが…

あらすじだけ見るとよくある商業BLのストーリーだが、勁が実は崩壊家庭で育ったアダルトチルドレン(スケープゴートタイプ)である事が他と一線を画している点だろう。

アダルトチルドレンヤンデレは密接な関係にあると思う。
正常でない環境で育った子供は、正しい感情表現がわからず、常軌を逸脱した言動に陥りやすい。

母親には捨てられ、父親と兄からは虐待を受け売春をさせられていたという壮絶な過去を持つ勁。
痛みや感情がないのではなく、傷付かないために感情を捨ててきたのだ。

そんな勁が宥と出会い惹かれるようになってから、捨ててきた感情を徐々に取り戻す。
そして自分のことを唯一本当に気にかけ愛してくれる宥に深く依存していくのだった…。


宥に褒められるためにボクシングで勝ち続けなければならない、と強く思い込む場面でこの上巻は終わっている。


まともな愛情を得られなかった子供は、自分を愛し育て直してくれる人を見つけると激しく依存し甘えるという。

勁はヤンデレタイプ別にすると依存型のヤンデレだろう。

下巻の発売が待ち遠しい。




一途と狂気の狭間 花より男子〜道明寺司

花より男子 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

花より男子 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)


国民的大ヒット少女マンガ、花より男子

ドラマ化され、そちらも大ヒットしたので知らない人間の方が少ないだろう。

この作品のヒーロー、道明寺司が実はヤンデレの素養があることに恥ずかしながら最近ようやく気が付いた。

10年以上前に全巻読み終えていたが、道明寺司と言えば作品初期のクズっぷりが印象に強すぎて、その後の一途っぷりを忘れていたようである。

いま改めて読み直すと、花より男子という漫画の根幹は「道明寺司の成長ストーリー」なのだとはっきりわかる。

つくしに惚れてから道明寺は徐々に変わろうと努力するが、肝心なつくしが類と道明寺の間でふらふらしているので、道明寺が傷付き、時に想いを爆発させる。もともと暴力的な道明寺は苛立つと周りの人間に八つ当たり暴力をふるい、それを見たつくしが道明寺を拒絶して…
この一連の流れが何回もループしている。


道明寺の暴力的な面は擁護できないしクズだと思うが、何回もつくしに告白をしては流され本気にされず、他の男子といちゃつく様を見せられる所は可哀想だしやりきれない気持ちになる。

最後にはくっついたからハッピーエンドだったものの、初期のままつくしが道明寺を受け入れなかったらとてつもないヤンデレキャラになっていたと思うと、ハッピーエンドなのが少し残念でもある。


ヤンデレタイプとしては、道明寺司は独占欲からの病み傾向なので「愛情独占型」タイプだろう。



大好きな相手に憎まれていた絶望 群青にサイレン〜吉沢空

この2巻の表紙が空。

群青にサイレン 1 (マーガレットコミックス)

群青にサイレン 1 (マーガレットコミックス)


月刊youで連載されている少女漫画、群青にサイレン。

この漫画でとても良いヤンデレキャラを発見した。

主人公、吉沢修二の従兄弟である吉沢空だ。

修二に嫉妬心から憎まれているが、空は修二に笑顔ばかり向ける。

修二と対峙する時の空の表情はまるで少年マンガのヒロインのよう…。

だが慎重に読み進めていくと、空の行動理念の根底はすべて修二のためであることがじわじわと透けてくる。

修二と野球をする為だけに単身、アメリカから日本に帰国したり、修二と接点を持つためにお互いの祖母の家に住んでいたり。

大好きな修二に嫌われていると知った時、はたして空はどうするのか?

その言動次第では脱ヤンデレ化もありえたのだが……

⚠︎以下、月刊you本誌ネタバレあり。








本誌のネタバレになるが、空は
「愛しさ余って憎さ百倍」タイプのヤンデレだろう。
修二が自分のことを幼い頃から憎んでいたと知り、ショックを受けるまでは普通の反応だったが、そこからの修二への態度がまさに「愛情が憎しみに変化した」としか言いようがない。

その気もないのに中途半端な優しさを見せる修二の言葉に密かに涙し、修二に対し猫かぶりをやめひたすら球種を増やそうとする。
もはや憎まれているのなら無視できないほどの投手になろうとしているのだろうか?
今後の展開も見逃せない。




ヤンデレとはそもそも何だ?

ヤンデレ大全 (INFOREST MOOK Animeted Angels MANIA)

ヤンデレ大全 (INFOREST MOOK Animeted Angels MANIA)


ヤンデレ


それは2005年頃から定着したキャラクターの性格要素を指す言葉である。-wikipedia参照

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ヤンデレ


それまでいたって普通だったヒロインorヒーローが、好意を抱く相手に対して異常な執着を示したり、常軌を脱した行動をしたりする。


ツンデレから派生された萌え文化の一つであり、ヤンデレというカテゴリーが生み出されてから徐々に世間に浸透し、いまやヤンデレのワゴンセールかというほど市場に出回っている。


数年前まではヤンデレキャラを探すのに一苦労していたが、市場に出回ってくれたおかげで最近では3歩歩けばヤンデレキャラに辿り着ける。


だが、量産される事で起きる問題もある。


マイナーな層向けだったヤンデレが、お手軽に誰でも楽しめるようになった。


言い換えれば

「なんちゃってヤンデレ」キャラ

が増えてしまったのだ。


10年以上ヤンデレを愛し、ヤンデレキャラを追い求めてきた筆者は声を大にして言いたい。


ヤンデレキャラの魅力は過程にある、と。


愛情があるがゆえに精神を病んでいくさまが美しいのであって、ただ血塗れになって刃物を振り回すキャラはとても醜いと感じる。


ヤンデレキャラを探すのにあたって、このような「なんちゃってヤンデレ」にぶち当たり嘆くことが多々ある。


萌えを探したのにとんだ地雷だった……といったことが少しでもなくなるように、これから当ブログでヤンデレキャラの出てくる作品を分析していこうと思う。


⚠︎筆者が夢女子腐女子なので、分析や考察する作品は9割方女性向け作品になる予定





……私がヤンデレキャラ好きになったきっかけの作品はこちら。